

本研究会は創立20年になります。弦楽器の製作及び修理に関する技術研究を行っています。作品発表展示会、研究会(会員のみ)、講演会の開催を行います。音楽文化の発展に寄与し、会員相互の連携、親睦を図ります。
今回のバイオリンはベルゴンツイ1732年の画像から取ったモデルで、表板を3回作り直しました。佐藤さんがお話されていた様に、バイオリン作りには、特に、表板の質量比:比重が重要なポイントと理解しています。表板の比重(重さを体積で割る)は、一般的に良いとされるのは36%+/-3と言われています。
何故、比重が重要かと考えると、軽くて堅い材料を選ぶ時の基準になるからです。薄く削っていっても板鳴り(タップトーンの)音程が高い材料が、弦の圧力に耐えられる力がある木と言う意味と理解しています。表板は鳴りを作る板なのでしっかりした特性を持った材でないと、いくらがんばって作っても良い楽器にはなかなかなりません。通常はフィエンメのスプルースを使っていますが、完成したこの楽器の表板は北米産イングルマンスプルースを試してみました。
まずは材料を選ぶことが大事で、これは、一般的に言われている事でハッチンスも言及しています。良い素材を使わないとタップトーンもモードチューニングも、他の資料や論文に書かれていることが再現は難しいです。参考までに、このバイオリンの最初に使った表板の比重はフィエンメで32.5%でした。この材は木目が1.5mm位で理想的なイメージで、これはすごく比重が低いと小躍りして、軽くて強い表板と確信して作ったところ、途中で少しテンションが掛かると直ぐに割れてしまったのです。3箇所位割れた部分にパッチを当てて修復して作り上げたのですが、最後に箱にしようとした時に再び割れてしまったので、イングルマンスプルースで作り直して、思う様にならず、3枚目で完了して展示しました。
この事から、比重が32.5%と低いだけでは十分でなく良くない材もある事が分かりました。このイングルマンのタップトーンモード5の音程はEで重さは65グラムでした。ところが、2枚目のイングルマンスプルースは強い木で軽くて音質はパンパンと良く響くと聞いていたので期待したのですが、強過ぎた為かこれも期待した鳴りにならなかったので、2014年4月の展示会の後に、更に、もう一度作り直したのが今回のバイオリンです。このイングルマンスプルースは38%で重さが66グラムでした。前回の表板(音程:E)から、今回は削りを増やして質量を半音落としてD#にしました。この3枚目の板の音は、一番注意していた4弦の高音部の鳴りは多少の向上は出来ました。この楽器がどこまで鳴るかは別として、一般的に低音弦のハイポジションが普通に鳴る楽器は、レベルが高いと考えます。バイオリニストが4弦だけで“G線上のアリア”を弾ける様なバイオリン、そんなイメージを意識しました。
表板の質量に対して裏板の質量があります。まず、良く乾いていなければならないのは言うまでもありません。最低、10年以上の乾燥時間の材料を使います。裏板はボスニア材の比重は60%以下の比重が良いと言われています。30年以上前に読んだ本に、表板と裏板の質量比は1:1.67と書いてありました。例えば、表板が70グラムの場合は、裏板は117グラム(70x1.67)位が最良のスプルースとメイプルを同じ位の大きさと厚さで成形した時のバランス比率になります。自分の場合は、この重量を意識しながら、表板と裏板の音程差を1/2音から1音、例えば表板:Eに対して裏板がFからF#に設定して作ります。
今回のバイオリンは弾ける状態(肩当無)で438グラムになりました。軽い方だと思いますが、軽くする為だけに次から次へと削ることは出来ないので、結果として軽くなることは難しいことだと思います。出来る限り余分なところに不要な材が残っていない様に意識して削ります。
作る時に質量のバランスを観るので、必然的に表板から始める事になります。表板に合わせて裏板を作る順番です。表裏板を削る時は、堅さ(触診)~重さ(グラム)~厚さ(ミリのグラデーション)~音程(ヘルツ)の4パラメーターを必要最低限最大公約数のバランスを取るイメージで限界ギリギリまで削ります。
ニスはバイオリン製作を始めた1979年の当初の頃はアルコールニスでしたが、1981年以降は殆ど全てオイルニスを使っています。何回も繰り返し繰り返し重ね塗りすると、ニスに立体感が出て磨くととても美しいのですが、自分にとっては、アルコールニスは塗装がとても難しいのでギブアップしています。ステインを除いて、普通のオイルニスで数回で仕上げるつもりでやっています。また、白木の状態で板の表面をスクレーパーやスポンジサンドで、ある程度、削り磨きますが、凸凹、キズや刃物跡等を取ることに注力しません。特に、ニス塗りを完了した後の状態で、出来る限り、スプルースとメイプルの表面の素材感を残したいと考えます。塗装回数が少ないので磨いてピカピカには出来ないのですが、それでも仕方ないと考えます。
最後に、自分にとってのバイオリン製作に最も重要なことは、何時でも、データをメモに書いて蓄積することを心がけています。これがハッチンスから学んだ一番の影響だと思います。これまで、30数本のバイオリンを作りましたが、様々な細かいことを記憶してバイオリン製作を向上していくことは、この程度の本数では難しいので、結局、このデータが財産になっています。
裏板用のメープルは美しい杢目を持っていますね。
端材でも立派な部品が作れますので、是非挑戦してみては如何でしょう。
別紙図面をよく見て以下の手順で作ってみて下さい。
冶具の作成は必須なのでかなり手間ですがしっかりしたものを作りましょう。
図面のダウンロード
システム環境により、解凍が必要な場合もあります。
木取り—端材でも図示のサイズが採れるかは部材の大きさによります。
中心でmin10mmが必要になりますのでVn用板の端材ですとギリギリセーフかも知れません。
図の寸法を確認しましょう。
冶具の製作
曲線と平面の混じった立体は手持ちでは工作がとても困難ですから支え台(冶具)をはじめに作っておきます。
クランプなどでテーブルに固定して使います。
テールピースの型により多少寸法が違いますので5mmくらいの融通性の有る構造にします。
仕組みが多少複雑になりますが面白い構造なのでこれの作成自体もまた面白いでしょう。
構成部品の作成は図面を見ながら手順を追って行きます。
用材: 加工性の良い材 白松、ラワン、ポプラ イチョウなど。
赤松 栂 杉などは加工性がわるい。
出来上がった冶具は次の2から使って行きます。
冶具の製作
木取り寸法は図面を見て下さい。
手順1
単一の寸法の材一本(24×15×600)ですべて出来るので、予め図の寸法でカットしておく。ボルトを用意する 5×40 蝶ネジ ワッシャー 各1個
手順2
材A,Bはスライド式部品になるので大きなガタが出ない様きれいに細工します。 鋸のあとはヤスリで整面する。
手順3
A,Bにボルト穴を開ける。 A,B はまった状態でいっぺんにドリルを通す。
手順4
A側にボルト納め溝を切る。 実際にボルトを通してみる。
手順5
ボルトが入ったAを台に接着する。
Cについて
図で立体が想像出来れば簡単です。
要はテールピースの端部は 裏加工すると形状が全く異なり、仕上げで平面での押さえが必要だからです。あえてはめ込み式にします。
手順1
手持ちのテルピースから厚紙に写し取り型紙を作っておきます
まず、切り出した材の斜面を平面に直し、直方体を作っておきます。
次にアウトラインを線引きして行きます。型紙から裏となる面に線引きします。
左右対称なきれいなラインに成形して行きます。
糸鋸 反り鉋 やすりでアウトラインが出来ましたら冶具にセットし、以下の手順で成形して行きます。
手順2
側面のサイドに底より2.5mmを線引きする。
表面に中心線を引く。
2つの線の間の材を削り落として峰を作ってゆく。
平のみ 反り鉋 半丸ヤスリ
手順3
中心線上に反りを入れる。 max2.5mmになる様中心線を削り落とす。
このとき始めに最大落とし幅となる位置に鋸を入れておくと落とし量の目安となる。
緩やかできれいな反りと平らな面を作って行きます。
再度中心線を引き、峰を作ってゆく。
手順4
きれいな峰が通ったら再度左右の面の調整を行う。
ヤスリ ペーパー
手順1
図面の通りに鉛筆で見当を入れておく。
サドルの材を作る—黒檀紫檀など堅い木材又はアルミ板
左右を峰で合わせるための加工をするので3ミリほど長めに作っておく。※2×4×28 2本
手順2
溝の彫り込み—パフリングと全く同じ要領なので難しくはないでしょう。
サドルのはめ込みは最終工程で入れます。
弦穴あけ—ドリルの前に必ず下穴を入れておく。斜面に対し垂直の穴は必ずしも必要ではない。
少し開く位の方がいいかもしれない。図5
弦溝つけ—円の中心からずれると見苦しいので此所は慎重に。
幅1.3mm~1.5 糸鋸 ナイフ ペーパー
幅について—実際に緒止め部の太さによっては1.3では入らないものも有った。
糸鋸のでの幅約0.6をナイフなどで広げる。
手順3
裏面の彫り込みと穴開け
図の通りですが弦穴裏がきれいに出てきます。
E線アジャスターがきちんと収まるよう気をつけます。
片方を先に接着し、もう一方を左右が頂点で奇麗に合わさる様、これに合わせる。 仕上げ—穴あけのバリやノミあとなどをペーパーで取り除く。
塗装—-虎杢を出す出さないは好みであるがオイルフィニッシュ、マット仕上げや黒のステインにクリアラッカー数回塗りもなかなか良い。
※参考画像はビラオ用のテールピースです。写真クリックで拡大します。
<雑感>
17世紀中頃に形態が決まり、18世紀後半くらいまで幾多の名工が出現致しました。その時代の作品が現在オールド名器として大活躍している事はご存知の通りです。
さて私たちはなぜバイオリン作りを続けているのでしょうか?
きっかけとなった動機はいろいろ有りますが、美しい音と美しい姿に惚れたのは確かでしょう。
自分の理想とする音を作るにはどうしたらいいのでしょう
一つとして同じものはない木材、基準寸法と様式はあっても、膨らみ具合や厚み、アウトライン ニスなど自由度も多い故に、
それらの絶妙な組み合わせをどう発見し実現してゆくかの探求、更に予測と実現度のギャップのジレンマとの連続でもあります。
しかしこの試行が音へ昇華してゆくのも時間こそかかれ確かだと思います。
もう一つは木工芸の醍醐味です。美しい木材と出会いじっくりと会話しながら手を加え美しい音が生まれる、
その過程では様々な加工技術を発揮します。
まさに楽器作りは木工芸の極みであると思います。
私たちが作れるのは新作でしか有りません。私は決してオールド名器の音を再現しようとは思いません。不可能だからです。
重要な事を一つ、私たちは良い音が出易い楽器を作ろうとしていますがこの楽器から美しい音を引き出す事が出来るのは優秀な奏者なのです。
工芸品は、自らは芸術ではないように思います。
さておき、このレディーは100年後どんな声で歌うのでしょうか
基本的に私は過去の歴史を紐解いたり、300年前の製法を~などとはあまり考えていません。
逆に、今のような精密測定具等が無くてもあの製作レベルの楽器が作れたのだから、せめて見た目くらいは同等の物が作りたい、
作れるはずと思っています。
今回のパーフリング製作も、先述のように特別の素材や道具がなくても作れるはずだとの信念から出来上がったレシピですので、
300年前にイタリアでストラディヴァリさん達がこうやって作っていたか?は解りません。
元々は分数楽器を製作するにあたり、フルサイズの楽器に使用するパーフリングではバランスがおかしいのでは?
と思った事がきっかけで、自分でパーフリングを製作する事を思い立ちました。
実際にはあまり細い(薄い?)パーフリングではパーフリング自体の製作も困難になりますし、
それを使用しての作業は困難を極めると思われます。実際、私が製作した時も、
既製のパーフリングの黒い部分を少々削り薄くし、叩いて白の部分を潰して使用しました。
材料
梨、くるみ、ポプラなどが使用されると聞きます。私は今回は洋梨材を用いました。 少し赤味があるので、薄いニスの色で製作される場合は多少目立つかもしれません。
道具
大きめのカンナ、耐熱ガラス容器、ゲンノショウコ末、酢酸鉄水溶液、木工用接着剤、 Fクランプ数個、刷毛、パーフリングカッター、毛引き、など
製作方法
1. 大型のカンナを使用して、厚さ0.3mm(作りたいパーフリングによって可変)2枚、 0.6mm厚のシート1枚を削りだします。0.6mmのスライス片を作るのは少々困難なので、 のこぎりで2mm厚程度にスライスし、カンナやスクレーパーで既定の厚みに持って行きました。
2. 0.3mmのカンナ屑を黒く染めます。
今回は草木染の方法で、ゲンノショウコを用いました。ゲンノショウコは河原などで採取出来ますし、 止瀉薬として薬局等で販売している場合もあります。採取したゲンノショウコは乾燥させて使用します。
ゲンノショウコを濃く煎じ、茶色のタンニン水溶液を作り、その液体でカンナ屑を煮ます。 ひと煮立ちさせたらそのまま常温になるまで放置し、タンニンを含ませます。 取り出したら水洗いせずそのまま軽く水分を拭き取り、乾かします。
酢酸鉄水溶液にカンナ屑を入れ、ひと煮立ちさせ、常温になるまで放置します。タンニンと鉄が徐々に反応して黒く染まります。今度はよく水洗いして乾燥させます。
3. 黒-白-黒のサンドイッチ状にします。
まず黒0.3mmのカンナ屑はカールしていると思うので、これに普通のアイロンを掛けて伸ばします。
白0.6mmの片側に、少し水で薄めた木工用接着剤(酢酸エマルジョン剤)をたっぷりまんべんなく塗布します。そこへ黒0.3mmのカンナ屑を貼り付けます。水分を吸ってカンナ屑がカールしてきますので、スポンジ等で張り付けた上から水拭きします。はみ出した接着剤を同時に拭き取ります。白0.6mmに塗布した接着剤をカンナ屑の方へ浸透させる効果も狙っていますが、カンナ屑へ直接接着剤を塗布はしなでください。
ひっくり返して反対側も同じ作業を行います。
まだ濡れている状態で、パーフリングより少し大きい平らな二枚の木の板に挟んでクランプで締め込みます。24時間ほど放置します。先の作業で、カンナ屑の方にも接着剤を塗布すると、この時点で挟んだ材木に接着剤が染み出して、外れなくなります。
24時間放置したらクランプを外し、板を取ります。この時、材木に張り付いて取りにくくなっているので、そっとパレットナイフのような物で剥がしていきます。
4. パーフリングの幅に切り出します。
パーフリングカッターや毛引きを使って両側から毛を引き、厚さ2mm程に切り出します。毛引きだけで切れない場合、ナイフ等で深く切り込みを入れて折り取ります。