
30半ばのあるときバイオリンを眺めて
いて。これを自分で作って演奏したら
どんなに気持ちが良いだろうだろう。
一生に一度でいいからバイオリンを作って
みたいと思ってしまったのである。
焼け木抗に火がついた。思い立ったが吉日、早速バイオリンを分解し、部品をまね
て作り始めた。有り合わせの材木を使い、
誰の指導も受けず、とにかくバイオリン
らしきものができた。案ずるより産むが
易しである。ぶっこわれないようにと
祈りながら弦を張っていく。生まれて
初めて本気で祈った。そして恐る恐る弾いててみると、何とちゃんとバイオリンの音
がしたのである。
この時の感激は今も生々しく記憶に残っている。かあちゃんと結婚した時の
感激や子供が生まれたときの喜びの記憶はかなり薄らいでしまったが、この時
の印象は今も鮮明である。そして模範的企業戦士は一夜にして変身し、道楽者
の人生に突入したのであった。一生に一度の初心を忘れ東京の楽器製作者の家
へ押しかけ教えを請い、2挺め、3挺めと道楽に励んだ。ただの木コロと板きれ
に心を込めて削ると生命が宿り美しい音色を奏でる。その魔力の虜となり未だ
に目が覚めずにいる。