山口 大地さん

2012年の秋の研究会の時にVSJの会員になってからあっという
間に4年が経ち、池袋での展示会も今年で3度目の出展となりました。
また今年の9月から晴れてクレモナの製作学校に留学することが決まり
ました。

●バイオリン製作のきっかけ
 一作目のヴァイオリンを製作したのは2009年の夏でした。
コントラバス奏者である叔父の紹介で親のいとこでもある菅沼
利夫氏の元で一から製作について教えて頂きました。バイオリン
の構造も一切わからない状態からのスタートでしたが完成した
一作目のバイオリンを見てもっと満足のできる物を作りたいと
いう欲求に駆られた。その後も工房に通い続けました。

 バイオリン製作家として本格的に活動したいと思ったのは
2011年でのイタリア留学がきっかけでした。当時在籍して
いた神奈川大学の交換留学の第一号として一年間ベネチア大学
に交換留学をした私は現地のイタリアの人たちの優しく大らか
な人柄、愛情あふれる文化に強く惹かれました。彼らの文化に
ついてもっとよく知りたいと思うにつれ、イタリアで永く愛されて
きた重要な文化であるの一つでもあるバイオリンへの関心もより
深まっていきました。特にクレモナはバイオリンの始まりの土地
でもあるのでバイオリンを製作する上で何としても訪れたいと
いう強い憧れを抱きました。

 物を作るのが好きという理由から始まったバイオリン製作ですが
イタリアからの帰国後に師匠である菅沼氏の紹介でVSJに入会
したことで大きな変化がありました。池袋の展示会に初めて楽器を
出展した際、試奏コンサートで実際に自分の楽器がステージ演奏さ
れるのを見て全く別の楽器の様に感じたのは今までにない衝撃でした。
たくさんの来場者の方々とも目と目を合わせながら真剣に接すること
ができました。そしてベテランの製作家の方から自分の様な新参者
まで老若男女問わずバイオリンに関する自由な意見交換ができた
ことは自分の人生においてもとても有意義な体験でした。VSJ会員
の方たちや展示会の来場者の方たち、そして演奏家の方たちのバイオ
リンに対する熱意に接するうちに「自分には何ができるのだろうか」
「こういう製作家になりたい」というイメージをはじめて明確に持つ
ことができました。

 私の父型の祖父は50年間大工として日本のものづくりに長年
関わってきました。母方の祖父は上海の日本人街出身で戦後に最初
の中国語辞典である『中日大辞典』を愛知大学で編纂した後、サラリー
マンとして各国を渡り歩き海外と日本の橋渡しをしてきました。多く
の方たちと接する中で自分の生き方について考えた際、日本のもの
づくりの文化を海外に伝えられる手段としてバイオリン製作はとても
魅力的な職業に感じました。

●これからの課題
 クレモナに留学するにあたって、最も勉強する必要があると感じた
のが、バイオリンに対する姿勢だと思っています。私はこれまであく
まで自分のためだけにバイオリンを製作することしか考えていません
でした。しかしVSJに入ってからの4年間で試奏コンサートや来場者
の方々の意見を通してバイオリンは演奏者が直接手に取って演奏する
ことにより本来の力を引き出すことができる物なのだと痛感致しました。
様々な製作上のミスや精度の問題、音に関するトラブルなどの課題に
直面する根本的なきっかけは演奏家の方たちや演奏を聴く方々の目線
に立って製作することが欠けていたことが原因でした。クレモナの
製作学校でたくさんの方たちと接し、本場の空気に触れることで少し
でも大きく成長することが出来るよう、海外で活動されている日本人
作家の後に続けるよう頑張りたいと思います。

●最後に
 バイオリンを製作し始めた当初は自分が製作家を目指すことになる
とは考えもしませんでした。ですがイタリアの留学をきっかけとして
国際的に活動する製作家の方々に対する憧れを強く抱くようになり、
VSJの会員になってからは皆さんのバイオリンに対する熱意や愛情
に接することでさらにバイオリンの持つ魅力の奥深さについて知ること
ができました。これからは受動的ではなく積極的に活動できるよう、
皆様への恩返しができるよう微力ながら精進致します。